性の多様性に関する適切な議論の協⼒を求める声明

NPO 法⼈レインボーさいたまの会
代表理事及び理事⼀同

 ⽇本社会においては、昨今、通称 LGBT 理解増進法の制定や各種最⾼裁判所の判断により、性の多様性に関する議論が年々活発化するとともに、今まで可視化されていなかった LGBT 当事者の存在について社会が向き合い始めています。
 埼⽟県内においても、性の多様性に関する条例が2022年に制定され、県内にてパートナーシップ・ファミリーシップ制度を設けている市町村は62⾃治体となりました。
 当会が任意団体として活動を開始した当時には考えることもできなかった社会の変容について、これまで当事者の困難解消や居場所作りを掲げてきた当会としても喜ばしい限りです。

 ⼀⽅で、性⾃認の尊重という⾔葉が⼀⼈歩きし、あたかも性⾃認を尊重することで今まで起きていなかった問題が発⽣するかのような問題提起が⼀部で⾏われており、⼀部の政治関係者においても同趣旨の発⾔が⾒受けられます。
 具体的には、性⾃認の尊重を重視することで、性⾃認が⼥性だといえば⾝体的には男性の者が⼥性のスペース(⼥湯、⼥⼦トイレ、⼥⼦更⾐室等)に⼊ることが認められる、これにより⼥性の⽣存権が脅かされるという論調です。

 しかしながら、⾏政が性⾃認の尊重に向き合い始める前から、トランスジェンダー当事者も⽇本社会の中で共に⽣活していました。それが、社会において可視化されず、社会の中で黙殺、排除されていたにすぎません。法令に基づき性別変更を⾏った当事者の数だけをみても、法令が施⾏されてから現在までの時点で累計 1 万⼈以上が性別の変更をしております。

 では、トランスジェンダー当事者の性⾃認を尊重した結果、上記の問題提起のように、⼥性のスペースが侵害され、⼥性の⽣存権が脅かされたという事例が、⽇本国内でどれほど確認されているでしょうか。性⾃認が⼥性であると騙った男性が⼥性のスペースに侵⼊したという報道はありました。しかし、これはトランスジェンダー当事者の犯罪ではありません。そもそも⼥性スペースが 社会的に必要視され、確⽴している背景には、男性から⼥性に対する性犯罪が割合として多数発⽣していたという経緯に基づきます。しかし、トランスジェンダー当事者が、⼥性に対し性犯罪を⾏っているという話ではありません。⼈種、性別、年齢にかかわらず罪を犯す者は⼀定の確率で存在します。しかし、トランスジェンダー当事者が類型的に⼥性への性犯罪を引き起こし、⼥性の⽣存権を脅かすとの問題提起は、根拠のない差別や中傷にすぎません。

 むしろ、トランス当事者の約半数が性暴⼒被害に遭っている側であるとの調査結果もあります。安全性の議論をする上では、トランスジェンダーもまたトランスジェンダーではない⼈たちと同様に安全を求めているという視点もここで強調しておきます。

 当会としては、現実を反映しない懸念を前提にした問題提起は、それ⾃体が、トランスジェンダー当事者への差別につながり、性⾃認の尊重のみならず性の多様性を否定する主張であると考え、このような議論を⾏う⾵潮に対し強く抗議いたします。 トランスジェンダー当事者はもちろん、LGBT当事者の多くは、特権を求めている訳ではありません。性差により⾝体的特徴が異なることや、染⾊体が異なることは当事者⾃⾝が誰よりも理解しています。その上で、多くの当事者は、⾃分らしく⽣きることを望んでいるだけです。好きな⼈と結婚をしたい、好きな服装をしたい、名前を変え、⼾籍性を変え、性的違和を解消したい、そんな希望を抱いているにすぎません。⾝体的な差異があることは承知しており、そのような差異を抱 えながら公共スペースに⽴ち⼊ること、特にその特徴的な部分が露出することを当事者⾃⾝が好まないことがほとんどです。

 故に、これまでも、これからも、そうしたスペースで問題が発⽣することは極めて希有であろうと予想されます。特に、厚労省の通知により、公衆浴場では「⾝体的特徴をもって判断するもの」 としており、性別適合⼿術等をせずに⾃認する性に基づいて公衆浴場に⽴ち⼊ればこれまでどおり犯罪となります。

 性⾃認の尊重を考えるに当たっては、現実を反映しない懸念を前提にするのではなく、どうしたら⽣きづらさを感じる当事者が社会的に排除されずに済むかを検討すべきだと考えます。そして、それには、個々⼈の状況に応じて周囲が⼀緒になって考える必要があり、当事者全体を⼀括して議論することは不要な対⽴や懸念を⽣むおそれがあります。

 埼⽟県が実施した 2021 年の実態調査では「死ねたらと思った、または⾃死の可能性を考えた」 と回答した性的マイノリティは 65.8%で、 性的マイノリティ以外の 26.8%に⽐べて⾮常に多い割合 でした。
 このような状況の中で事実に基づかない誹謗中傷や議論が当事者の⽬に⽌まってしまった場合、 どのようなことになるか想像に難くありません。

 当会としては、同性愛・異性愛・性⾃認に関わらず、すべての多様である⼈々が、共に⽀え合って⽣きていける社会を願っています。そのような姿勢こそが、性の多様性と向き合うことであると考え、社会に対し協⼒をお願いする所存です。

 最後に、こうした偏⾒や誤解に触れ⼼を痛めている当事者・ご家族・ご友⼈の皆様に申し上げます。すべての⼈は⽣まれながらに⾃分らしく幸せに胸を張って存在する権利があります。当会は今後も「誰もが『ありのままに』『⾃分らしく』⽣きていける多様性を尊重する地域社会の構築」を⽬指し、すべての性的少数者のみなさんの社会的包摂と理解の推進のために、各⽅⾯への働きかけを継続してまいります。